絵本「えべっさま物語」が誕生するまで

絵本「えべっさま物語」

 ●「えびす語り」を絵本にしたい

 絵本「えべっさま物語」は、人形芝居えびす座の武地秀実さん(初代座長)が、公演時に「えびす語り」という演目で、えびす人形を廻しながらえびすさまの生い立ちを語った朗読人形芝居をベースに創られた作品です。
 武地さんは難病を患って入退院を繰り返す生活の中、「えびすさまの生い立ちと歩み」を記した絵本を後世に残すことを望み、身体が辛い状況の中、病床で絵本のストーリーを書き上げたのです。
 その後、書き上げた原稿をもとに絵本「えべっさま物語」を作ってほしいと、えびす座の相方(囃子方)を努めていた松田恵司に絵本制作を託し、その後知人の絵本制作アートディレクターのリトウ・リンダさん(ギャラリーウラン堂)にも絵本のデザインを依頼して、絵本「えべっさま物語」制作委員会を立ち上げました(その後、武地さんの三女の平良未季さんも参加)。

●一時は挫折しかけた絵本づくり

 当初、絵の作画はの武地さんの知人の画家に頼んでいたものの、病床の武地さんが「描いた絵を見せてほしい」と何度頼んでもいつまで待っても1枚の絵すら見せにこず、編集部から絵の持ち込みを何度も催促しても、電話にも出てもらえない状況が続いたので、この時点で編集部としてはこの画家さんに見切りを付けざるを得ない状況に追い込まれてしまいました。

 結局、この画家さんが編集部に絵を持ってきたのは、武地さんが亡くなられてから三ヶ月も経った頃で、それもわずか数枚だけの絵であり、その絵も、編集部としてはとても採用できないレベルでした。
これほど遅延した理由を尋ねると、「以前から精神的な疾患を持っていたために描けなかった」とのことですが、いかなる理由があれども、この画家さんは【ビジネスパートナーとしての信頼】を自ら完全に放棄されてしまったことは至極残念でなりません。
 絵本制作委員会編集部としては、このままでは何年かかっても出版できないと判断し、絵の作画を本当に信頼できる別の画家に替えるという大英断を下しました。この時点で画家を切り替えるという行為は自殺行為とも言えるもので、スケジュールも何もかも白紙に戻した上での「覚悟」となったのです。

●制作委員会の新たな舟出

  今回の作品は、絵本としては極めて特殊なもので、遥か昔の神話の世界から平安時代を経て現代に至るという壮大な時空間の流れを背景に、それぞれの場面での時代考証を考慮した絵作りをしていかないといけません。また、描画中でも何度も書き直しが要求されるのは必須で、精神的にこういう事態にも柔軟に対処できるベテランの描き手を探す必要がありました。
 このような状況の中、力になってくれたのが生前、武地さんが信頼して絵本デザインを託したリトウ・リンダさん(ギャラリーウラン堂)でした。リンダさん自身もこれまで絵本のプロデュースを何冊も経験しており、画家やイラストレータも多くの人材を知っていたのです。
そこでリンダさんが目を付けたのが、関西でもトップクラスのプロのイラストレータ(画家)である梶川達美さんでした。梶川さんは日本の伝統的な絵も多く描画された経験をお持ちで、結局今回の絵本の作風的にもピッタリだと判断されたのです。
編集部からは梶川さんに、これまでの経緯や絵本のコンセプトを話して「編集部からのリクエストもたくさん発生し、描画作業には大変苦労されると思いますが、是非私たちと共にこの仕事に参加していただけませんか」と懇願し、快く引き受けてくださったのです。これにより、絵本「えべっさま物語」制作委員会は、武地秀実(故人・シナリオ原作)、松田恵司(編集長)、リトウ・リンダ(アートディレクター)、梶川達美(絵本原画制作)、平良未季(編集委員)、西宮神社 吉井良昭 宮司(監修)の6人で新たな舟出を迎えることとなりました。

●絵本「えべっさま物語」の見せ方
 絵本「えべっさま物語」では、全体を通してえびすさまが語り、時代が移り変わる場面では「えびすかき」の武地さんがナレーションを入れるという見せ方で構成しています。
 この絵本の制作に関して、前半部分は古事記に基づいた神話で、この部分の絵作りには苦労の連続でした。場面毎の情景や登場する神々のキャラクターデザイン、そして原稿の内容は史実に基づいて誤記はないか等、事実確認の裏を取る校正作業に明け暮れていた時期がありました。
 また、絵本の中盤では武地さんが想像して書いたオリジナルストーリーとなっており、ここでえびすさまが体験された悲哀が綴られた展開が見せどころです。前半の神話部分の壮大な展開との間でギャップを感じないように、前半最後の「嘆き・悲しみ」がそのまま続いて、物語の流れを断ち切らないように配慮しました。
 そしてこの後、ヒルコさまが解放されて日光が燦々と降り注ぐ大海原に浮かび上がられたとき、時代はまだ「神代」なので周囲の風景や人間も時代考証に合わせて描画しています。大海原を漂ううちに悠久の時が流れ、時代は平安時代に移ったことを「えびすかき」の武地さんが語るという見せ方をしています。
 さて、物語後半では、西宮神社に伝わる「おこしや伝説」を基に物語が進みます。この後半部分のラストで、武地さんが一番伝えたかったことが記されているのです。それは「笑いたくても笑えなかったえびすさまが、なぜ満面の笑みで福を配られる『福の神』になられたか」というテーマなのです。
 この絵本「えべっさま物語」を手に取られてお読みいだだき、その背景を皆さま一人ひとり感じてみてくだされば幸いです。

絵本「えべっさま物語」 編集長 松田恵司

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